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日本隊
 

 北半球が夏を迎えつつある頃、南半球はすぎゆく秋を惜しんでいる。
 その季節よりも早足で、若者は世界をめぐっている。
 しかし、その旅も間もなく終わりを告げようとしていた。

北半球迎來夏天之際,亦是南半球正惋惜著秋天即將離開的時節。
在那季節到來之前,年輕人正在世界各地遊歷著。
不過,這趟旅程似乎也馬上就要宣告結束了。

 

 アルゼンチンタンゴの哀愁を帯びた旋律が、この裏路地にまで聞こえてくる。
 ひと月以上もこの国に滞在していて、タンゴのステップのひとつも覚えられなかったといえば、紅丸ならきっと馬鹿にするだろうが、別に若者はダンスを習いにきたわけではない。

如果說在這個國家待了一個多月有餘,卻連個探戈的舞步都沒能學會的話,肯定會被紅丸消遣是笨蛋吧,不過原本年輕人就不是打算來學跳舞的。

 

 タンゴのメロディに合わせて口笛を吹きながら、革ジャンのポケットに手を突っ込んだまま、若者は弱しいネオンの輝きにかすかに照らされた道を歩いている。
 と──
 若者は唐突に大きく後ろへと跳んだ。
────
 肩にかけていたナップザックをその場に落とし、軽く拳を握って身構える。
 その頬に、うっすらとした赤い血の線が浮いていた。
……何モンだ、テメェら?」濃い闇に向かって、若者は低い声で問うた。
「草薙京──だな?」

和著探戈的旋律吹著口哨的同時,把雙手插進皮夾克的口袋中,年輕人在霓虹燈微弱光線映照下的街道漫步走著。
 一時之間──
 年輕人突然大步地往後躍。
────
 將原本背在肩上的輕便背包丟到一旁,輕握起拳頭擺出架勢。
 在他的臉頰上,微微地浮現了一道血痕。
你們是什麼人?」向著濃密的黑暗中,年輕人低聲問道。
「草薙京──是吧?」

 

 闇の向こうから嘲りを含んだ声とともに現れたのは、マッシュルームカットのひょろりとした少年と、不自然なほどにその少年に寄り添うショートボブの少女──ふたりとも闇よりも暗い目をしていて、病的なまでに肌が青白い。
「その気配、覚えがあるぜ」

從黑暗之中以隱含嘲弄的口吻說道並現身的,是名頂著磨菇頭髮型的瘦高少年,和不自然地貼著少年、留著短鮑伯頭的少女──兩人都有著漆黑深遂的眼眸、與幾近病態的青白色肌膚。
「看這動作、還是有察覺到的嘛。」

 

 ふたりを見据えたまま、若者──草薙京は頬の傷をそっと押さえた。
……例のナントカって連中の仲間か? いったい俺に何の用だ?」
…………
 少年は京の問いには答えず、手にしていた紐のようなものをもてあそんでいる。
その手もとを見やり、京は目を細めた。
 少年が手にしていたのは、黒い革製の眼帯だった。
 それを見た京の脳裏に、老練な隻眼の傭兵の姿がよぎった。

定睛看著二人,年輕人──草薙京輕輕地按住臉頰上的傷。
……是那群叫做什麼集團的同夥嗎?找我有什麼事?」
………
 少年沒有回答京的問題,手上玩弄著一個類似帶子般的事物。為了看得更加清楚,京瞇起了雙眼。
 少年手中所拿著的,是一條黑色的革製眼帶。
 看到那東西的京,腦海中所浮現的、是老練的獨眼傭兵的身姿。

 

 もしこの少年が、京が思い浮かべた男から眼帯を奪ってきたのだとすれば、その実力はかなりのものに違いない。サマーセーターを着込んだ少年の体格は、格闘家というにはあまりに細すぎたが、その柔弱な姿の内側に、何か尋常ならざる力を秘めているのかもしれなかった。

「なるほどな。ただのネズミじゃないってことか。──で、いったい俺に何の用だ? このままダンマリを続けるんだったらこっちにゃ用はねえんだ、さっさと道を開けな」
「威勢だけはいいじゃないか」
 少年はおどけたように右目に眼帯をつけると、長く爪が伸びた右手で京を不躾に指差した。

若這名少年,是從京聯想到的那名男子身上奪走眼帶的話,其實力必定不容小覷。身穿夏季毛衣的少年的體格,雖然以格鬥家而言太過於纖細,不過在那看似柔弱的身軀中,或許蘊藏著不尋常的力量。
「原來如此。看來只是個愛偷東西的鼠輩啊。──所以,找我到底有何貴幹?若只是像個啞巴似地呆站著的話那是在浪費我的時間,趕快閃到一邊去。」
「若只單論威勢的話還挺行的嘛。」
 少年滑稽地在右眼戴上了眼帶,並無禮地伸出右手修長的指甲指著京。

 

……こうしてアイサツするのは初めてだけど、完全に見込み違いだったよ、草薙京。まさかの継承者がこの程度だったなんてな」
 不意討ちによって頬に浅く傷を刻まれた京を前にして、少年は少女と顔を見合わせ、くすくすと笑っている。しかし、完全に自分を見下しているようなその態度にも、京は決して怒りをあらわにはしなかった。むしろその口もとには、不敵な笑みさえ浮かんでいる。
「そういうテメェらこそ、ナメた口を聞くには100年早ェんじゃねえのか?」
「何だと──
「まだ気づかねえのか?」
 京が逆に少年を指差すと、少年のサマーセーターの胸のあたりが、不意に真っ白な灰に変わって崩れた。
……!」

雖然這是我們初次見面,卻完全跟我預想的大不相同呢,草薙京。難道說""的繼承者只有這點程度而已嗎。」
 剛剛冷不防地在京的臉頰上劃了道淺淺的傷痕,少年少女對望著,咯咯地竊笑起來。不過面對完全看輕自己的那種態度,京臉上絲毫沒有露出慍色。相反地嘴角還浮現了大無畏的笑容。
「你們才是,想說瞧不起我的話可還早了100年呢。」
「你說什麼──
「還沒有發覺嗎?」
 京反過來指著少年,少年夏季毛衣的胸口處,突然變成白灰狀粉碎了。
……!」

 

 少年の表情が驚きにこわばる。彼が闇の中から京を急襲したあの刹那、京は頬の皮一枚を切らせながら、少年の急所へと正確無比な──それでいて十二分に手加減をした一撃をあたえていたのである。もし京にそのつもりがあったなら、少年は今頃、草薙の炎に包まれてこの場に倒れていたかもしれない。
 それが判ったのか、少年の口調から京に対するあなどりの色が消えた。
……確かに見込み違いをしていたようだ。予想以上という意味でね」
「ご理解いただけて何よりだ」
 京は軽く首を回し、唇を吊り上げた。
──なら、今度はこっちから行かせてもらおうじゃねえか!」
「待ちなよ」
 京が間合いを詰めようとする寸前、少年が何か白いものを京に投げ渡した。
──?」

少年的表情驚訝地僵住了。當他從暗處向京突襲的剎那,京在臉頰被劃開一小片皮的同時,朝少年的要害發出正確無比的──同時也是十二分手下留情的一擊。若是京有那打算的話,少年此刻可能早已全身被草薙之炎所包覆而倒臥當場了。
 意識到這一點,少年對京輕視的語氣消失了。
……的確是與預想的大不相同。完全在我的預期之上。」
「你能夠理解是最好不過了。」
 京輕輕地轉了轉頭,嘴唇上揚。
──所以,這次就由我先出手囉!」
「等等。」
 在京正打算一口氣拉近彼此距離之前,少年將一件白色的東西擲向京。

 

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 咄嗟にそれを受け止めた京は、思わず眉をひそめた。
 白い封筒に赤い封蝋、そしてそこに捺された“R”の飾り文字──どれもこれも見覚えのあるものばかりだった。
 京は闇からの訪問者たちに視線を移し、いぶかしげに尋ねた。
……どうしててめェらがこんなモンを?」
「逃げ出されたんじゃ困るんでね。念には念を入れて、アンタには直接招待状を届けることにしたのさ。──もっとも、どうやら無用の心配だったみたいだけど」
 溜息混じりに肩をすくめた少年は、不気味な沈黙を続ける少女とともにゆっくりと後ずさり始めた。

瞬間將之接下來的京,不禁皺了皺眉頭。

以紅色封蠟彌封的的白色信封,並且在蠟上捺印了"R"的字樣──怎麼一個個都儘是些曾經見過的玩意。
 京的視線移向暗處來的訪客,狐疑地問道。
……你們為什麼要給我這東西?」
「若讓給你逃掉的話我們會很為難呢。送佛送到西、乾脆直接把邀請函給你送來了。──不過,看來似乎只是杞人憂天罷了。」
 嘆息著聳了聳肩膀的少年,與始終保持沈默令人感到戰憟的少女,開始慢慢地向後退去。

 

「確かに渡したよ、草薙京。たぶん、アンタが捜してるヤツも出てくるだろうさ。……せいぜいがんばってくれよ」
「余計なお世話だぜ」
 少年たちが闇の中へと帰っていくのを見送った京は、あらためて招待状を見つめた。
 封を切らずとも、中身はすでに予想がついている。
 拾い上げたナップザックの中に封筒を押し込み、京は笑った。
「ま、燃えさせてくれりゃ何でもいいさ。──俺はあの野郎をブチのめすだけだからな」

「確實地將東西交付給你了唷,草薙京。我想大概,在找你的那傢夥也會過來吧。……盡可能地多加油吧。」
「多管閒事。」
 目送少年們消失在黑暗中的京,重新凝神盯著邀請函。
 即使不開封,其中的內容也早就料想得到。
 將輕便背包拾起來,並將信封給塞進去,京面露笑容。
「總之,能讓我燃燒起來的話無論怎樣都行。──因為我就只想著狠狠揍那傢伙一頓吶。」

 

◆◇◆◇◆

 

信号待ちの間、バックミラーの角度を調整しながら、二階堂紅丸は草薙京に尋ねた。
──そういやおまえ、真吾の見舞いはどうする?」
「必要ねえ」
「ちづるさんのところは? この前八神が来たらしいぜ?」
「もっと必要ねえ」

在等待紅綠燈的空檔,調整後照鏡角度的同時、二階堂紅丸向草薙京詢問道。
──說起來、你要不要去給真吾探個病?」
「沒有必要。」
「千鶴小姐那邊呢? 似乎八神之前去找過她喔?」
「更加沒有必要。」

 

ぶっきらぼうに突き放し、京はあくびを噛み殺した。
 つい小一時間前、空港で久方ぶりに再会した草薙京は、よくも悪くも昔のままだった。愛想がよろしくないのも昔のまま、いい年をして、まだどこかに子供っぽい部分が残っているのも相変わらずだった。海外で武者修行をしてきたという話だが、鍛えられたのはもっぱら肉体面だけらしい。
 バックミラー越しに後部座席の大門五郎と視線を交わし、紅丸は小さく苦笑した。
……何だよ?」
 京がじろりと横目で紅丸を睨んだ。

草率地敷衍回應,京剋制住想打哈欠的衝動。
約一個小時之前,在機場再次見到久違的草薙京,仍然死性不改。一如往昔般的不留情面,即使年歲漸增,孩子氣的部分依然保留著。雖說去了國外進行武者修行,看來鍛練的部分也僅止於肉體上而已。
……幹嘛啦?」
 京橫眼瞪著紅丸道。

 

「何が?」
「今笑ったろ?」
「別に」
……ふん」助手席を大きくリクライニングさせ、京は窓の外を見やった。
──ところで大門よ」
「何だ、京?」

「什麼?」
「你剛剛笑了吧?」
「沒有啊」
……哼」將副駕駛座的座椅大大地往後傾斜,京望向窗外。
──話說回來大門啊。」
──怎麼樣,京?」

「おまえ、本業のほうはいいのかよ?」
「ワシはつねに一柔道家のつもりでおる。心配にはおよばん」
 静かに愛車をスタートさせた紅丸が、生真面目そうな大門の言葉のあとを受けてつけ足した。
「ゴローちゃん、大会が終わるまで講師のほうは休むんだとさ」
「へえ、それじゃ教え子たちのためにも負けられねえな」

「你啊,本業那邊沒問題嗎?」
「我常懷身為一名柔道家該有的自覺。無需掛心。」
靜靜地將愛車發動的紅丸,聽完大門一本正經的話語後踩動油門。
「大門醬,到大會結束前講師那邊的工作可得先休息了啊。」
「嘿,如此一來即使為了學生們也不能輸吶。」

 

「無論のこと、負けはせぬ。……それはおぬしも同じだろう?」
……まあな」
 車窓の外を、風のような速さで緑が流れていく。ぼんやりとそれを眺め、京は気の抜けたような笑みをもらした。
──なあ、紅丸、大門」
「どうした?」
「いまさらなことをいうけどよ、かまわねえか?」
「何だよ、あらたまって?」

「那當然,絕不能輸。……說起來你也是一樣才對吧?」
……算是吧。」
 車窗外,綠色的街景如風般向後流逝。眺望著窗外模糊的景致,京鬆了一口氣似地笑出聲來。
──喂,紅丸、大門」
「怎麼了?」
「雖然現在才說是晚了點,沒關係吧?」
「什麼嘛,這種事還用問?」

 

「今度の大会、主催者が誰かは知らねえが、裏で糸を引いてんのはあの連中だぜ」
遥けし彼の地より出づる者”──これまでの大会で、紅丸も大門も、そう呼ばれる者どもとの邂逅を果たしている。彼らが恐るべき敵だということも承知している。
 そうした敵との戦いを予言する京の言葉に、だが、紅丸も大門も、顔色を変えることはなかった。
「ま、そんなことだろうとは思ってたさ」
 横顔に涼しげな笑みをたたえ、紅丸は京を一瞥した。

「這一屆的大會,雖然還不知道誰是主辦者,不過在背地裡穿針引線的就是那個集團。」
"
來自遙遠彼岸之人"──在這之前的大會中,紅丸與大門也曾與被如此稱呼的人們打過照面。也清楚知道他們是恐怖的敵人。
 然而聽到京預言將要與那樣的敵人一戰,紅丸與大門依然神色自若。
「差不多,我想也是這麼回事。」
 對著側臉露出爽朗的笑容,紅丸瞥了京一眼。

 

「敵が強いほうがやり甲斐もあろうというものよ」
 巨木の枝のような腕を組み、大門は野太い笑みを浮かべた。
──確かにいまさらだな」
「うむ。いまさらだな」
「うるせえ」
 京は不貞腐れたように目をつむった。

「敵人夠厲害才有交手的價值啊。」
如大樹枝幹般的手腕環抱胸前,大門浮現了放肆的笑容。

──現在才說的確是嫌晚了啊。」

「唔嗯。是嫌晚了呢。」

「囉嗦。」
京鬧脾氣似地閉上眼睛。

 

◆◇◆◇◆

 

 若者がふるさとへ戻ってきた時、北半球はまぎれもなく夏だった。
 夏は彼らの心を熱くさせる。
 いつもの仲間と、いつもの夏、それと、もしかするとあの男──

年輕人回到故鄉的同時、北半球也完全是夏天了。
夏天使他們的心也跟著沸騰起來。
和一樣的夥伴、一樣的夏天、以及、也許和那個男人──

 

京を燃えさせるには、それで充分だった。

要使京燃燒起來,只要這些就足夠了。

 


─ END ─
 
 

 


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