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八神隊
 

 このところの暑気を考えれば、その夜は決して暑くはなく、ときおり強い風が吹くこともあって、むしろすごしやすいとさえいえた。
 にもかかわらず、神楽ちづるが目を醒ましたのは、やはり暑さのせいというより、虫の知らせというものだったのかもしれない。
────
 庭に面した障子を透かして射し込む満月の光が、部屋の中を青く静かに照らし出している。
 その障子に細長い影が映り込んでいることに気づいた瞬間、ちづるの意識は完全に覚醒した。

若考量這時節的暑氣,今夜肯定算不上炎熱,兼且時有強風吹拂,或許甚至該說是有些涼爽的。
 儘管如此,使神樂千鶴從睡夢之中醒過來的,與其說是因為暑熱、不如歸咎於那擾人的蟲鳴吧。
────
 滿月的月光透過了向著庭院的簾幕,在屋內靜謐地倒映出藍色的光輝。而在察覺到簾幕上映照出細長影子的瞬間、千鶴的意識完全清醒了。

 

「! 誰!?
 ひそめた声でそう誰何してから、ちづるはすぐに自分の未熟を悟った。こうしてはっきりとその影を見据えるまでもなく、気配を探れば、庭先に音もなく現れた訪問者の正体などすぐに判る。
 ちづるが恥じたおのれの未熟を、影もまた察したらしい。
……腑抜けたな、神楽」
 低い冷笑が飛んできた。
「あなたこそ──
 白い襦袢の胸もとを深くかき合わせ、ちづるは布団の上に身を起こした。
「あなたのほうこそ、炎を失ったままなのでしょう?」
「それがどうかしたか?」

「! 是誰!?」

在壓低聲音詢問之後,千鶴立刻領悟到自身的不成熟。即使沒能清楚看見那倒影,用探索氣息的方法、也該能立刻清楚那名悄無聲息的來訪者的真實身份才是。
 千鶴羞愧著自己不成熟之事、影子的主人彷彿也察覺了。
……妳變膽小了吶、神樂。」
 傳來低沈的冷笑聲。
「你不也是──
 將胸口的白色襦袢緊緊拉攏、千鶴從棉被上直起身子。
「你不也是一樣、最近才剛失去了火焰對吧?」
「那又如何?」

 

その傲慢な返答に、ちづるは返す言葉がなかった。
 紫の炎を失ってもなお、彼の強さは色褪せていない。ちづるの身辺警護のためにこの屋敷に詰めているボディガードたちを、ことごとく叩き伏せてここまでやってきたことを思えば、それは疑いようのない真実だった。
 鏡の力を失い、覇気すらも失いかけていた自分とは大違いだと、ちづるは唇を噛み締めた。
「貴様の力が戻っているかと思って様子を見にきたが……やはりあの小僧を始末する必要があるようだな」
 男がきびすを返す気配に、ちづるは慌てて手を伸ばした。
「待ちなさい、八神! これは、あなたにとっては大きなチャンスかもしれないのよ!?

對那傲慢的回覆、千鶴無言以對。

即使在失去紫焰之後、也絲毫沒有令他的強悍褪色。從他能將集結在千鶴附近保護她的保全們通通擊倒而來到此處看來,這是無庸置疑的事實。
 與失去了“鏡之力”,就完全喪失霸氣的自己相比,實在差天共地。
千鶴不禁緊咬下唇。
「只是過來看看妳的力量是否回復了看來果然還是有必要將那個傢伙給收拾掉才行吶。」
 眼見男子意欲離開、千鶴慌不迭地伸出手來。
「請等一下、八神! 這對你來說、難道不是一次大好的機會嗎!?」

 

……何がだ?」
「あなたの使う八神の炎は、この660年の間に、オロチの力と分かちがたいほどに混じり合ってしまっているわ。でも、あなたが勾玉の力と炎を失った今なら──今なら八神家が、オロチの呪縛から逃れることもできるかもしれないのよ?」
「くだらん」
 男はちづるの訴えを一笑に付した。
……俺は俺だ。八神家のことなど知らんな」

……什麼機會?」
「你所使用的八神之炎,是這660年間,與大蛇之力互相融合而成的。然而、若是在你喪失"勾玉"力量下的現在──此刻,豈不正是八神家能從大蛇咒縛之中逃離的時刻嗎?」
「無聊。」
 男子對千鶴的訴求一笑以對。
……我就是我。八神家的事與我無關。」

 

「八神──
 なおも男を呼び止めようとして、ちづるは自分がいかに不条理なことを口にしているか、いまさらのように自覚した。
 八神家の炎、八尺瓊の勾玉の力──それがオロチの血と不可分なものだとするなら、彼がオロチと決別するには、おのれの炎を永遠に捨てなければならない。
 だが、同時にそれは、オロチを封じる三種の神器の一角が、永遠に失われるということでもある。

「八神──

雖然仍想叫住男子、千鶴此時也察覺到自己所說的是何等不合理的事。八神家的火焰、"八尺瓊勾玉"的力量──若那是與大蛇之血密不可分的話,一旦他與大蛇分離,等於必須永遠地捨去自身的火焰。
 然而這樣一來,也代表著將會永遠失去封印大蛇的"三樣神器"的一角。

 

 そのジレンマに、ちづるは青ざめた。

「安心しろ。じきに貴様のももとに戻る」

押し黙ってしまったちづるに、男が去りぎわに声をかけた。

……もっとも、次に失われるのはだがな」
「やめなさい、八神!」
 ちづるは布団を出て障子をからりと引き開けた。
 だが、そこには青い月に照らされた静かな庭があるばかりで、赤毛の男の姿はもはやどこにもなかった。

想到這進退維谷的情形,千鶴的臉色蒼白了。

「放心吧。很快就會將妳的""也一併取回來的。」
對著無言以對的千鶴,男子臨去之際再次開了口。

……不過、下一個將失去的就是""了吶。」

「不要這樣,八神!」

千鶴掀開被褥飛快地拉開簾幕,卻只見皎潔月光映照下一片沉寂的庭園,紅髮男子的身姿早已不見蹤跡。

 

◆◇◆◇◆

 

 真下の幹線道路を大型のトラックが通りすぎるたびに、歩道橋全体が細かく震えていた。
 風雨にさらされ続け、あちこち塗装が剥げて錆の浮いた歩道橋は、何か巨大な動物の無惨な死骸のようにも見える。
 その背骨をゆっくりと登っていた八神庵は、ふと足を止め、今宵の月を見上げた。
…………

每當下方幹線道路有卡車通過時,整座天橋都會隨之微微震動著。
在風雨摧殘下,處處斑白生鏽的天橋,
看來就猶如一具悲慘的巨大動物遺骸一般。
緩緩登上其背骨的八神庵,忽然間止住了腳步,抬頭仰望今晚的月色。
…………

 

右手の指先にはさまれたタバコがほとんど灰に変わった頃、庵が唐突にいい放った。
……亡者ごときがいまさら何の用だ?」
 天から地へと落ちた冷徹なまなざしが、歩道橋の端のほうに凝り固まっているかぐろい影を見据えた。
「俺に恨み言をいいに現れたか? それとも、もう一度殺してくれとでもほざくつもりか?」

夾在右手指尖的香菸幾乎化成灰的時候,庵唐突地出聲了。

……已死之人事到如今還有什麼企圖?」

如天落地的冷冽視線,緊緊盯著在天橋另一端的黑影。
「是為了向我一吐怨恨而現身的嗎? 還是說,打算再被我殺一次呢?」

 

 庵のその言葉に、闇が応じた。

「ご挨拶ね、八神……久しぶりに会ったっていうのに」

「もう一度空をご覧よ。……前にいっただろう? 満月の夜にまた会おうってさぁ」
────
 ひどくなまめかしい女たちの声に、庵は眉ひとつ動かさなかった。

黑暗回應了庵的話語。

「只是來打聲招呼的,八神……明明我們已經許久不見了吶。」
「請再看看天空吧。……以前曾經說過的吧? 在滿月之夜時我們還會再相見的。」
────
 對那非常妖豔的女子們的聲音,庵的眉毛一動也不動。

 

 庵の視線を受けて、影が身悶えしていた。静かに、しかし確実に、影は次第にはっきりとした形を取り始めている。
 そして、ついに2次元の世界から3次元の世界へと立ち上がった時、影は美しい女たちの姿を手に入れていた。
 タバコの吸い殻を投げ捨て、庵は目を細めて呟いた。
……何の未練があって現れた?」

庵投射過來的視線,使影子感到不自在。靜靜地、不過確實地,影子漸漸化做清晰的形體。
 接著,在完全從2次元轉變成3次元而站起來時,影子成為了美麗的女子身姿。
 將煙蒂一丟,庵瞇起眼睛低聲道。
……妳們現身是為了什麼值得留戀的事?」

 
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「未練? そんなものありゃしないよ」

赤毛のバイスは大きく身体をねじり、伸びをしながら答えた。黒いパンツルックに包まれた肢体がくねる姿は、まるで獲物を狙う蛇を思わせる。
──もともと出てくるつもりなんてなかったんだ」
「なら、なぜここにいる?」
「さあ、なぜかしらね。……もしかすると、あなたたちが存外に不甲斐ないからじゃない?」
 澄まし顔で答えた金髪のマチュアは、右目にかけた眼帯を押さえ、赤く濡れ光る唇を吊り上げた。
……何がいいたい?」

「留戀的事? 沒有那樣的事唷。」

紅髮的拜斯大幅度地扭動身軀,伸展的同時回答道。那被黑色褲衩所包覆、扭動著的身姿,宛如一條對獵物虎視耽耽的蛇。
──原本是沒有打算再現身的。」
「那麼,妳們為何現在會在此處?」
「不知道耶,到底是為什麼呢。……或許是因為,你們出乎意料地窩囊的緣故?」
 一頭金髮、裝模作樣地回答道的瑪裘亞,手按住遮住右眼的眼帶,漾著光澤的朱唇揚了起來。
……妳想說些什麼?」

 

「神楽に続いて八神……あなたまでしてやられたそうじゃない? あの、アッシュ・クリムゾンとかいうぼうやに」
「おまけに、妙な連中がオロチの力を狙ってるんだろ? 遥けしかの地より出づる者とかいう連中がさぁ」
……知らんな。興味はない」
「そりゃああんたはそういうだろうさ。自分自身のことにだって興味はないんだろうからねえ」

「神樂之後接著是八神……不是連你也被打倒了嗎? 被那個叫Ash Crimson的男孩。」
「拜你們所賜、大蛇的力量被奇怪的傢夥給盯上了喔?那個喚做"來自遙遠彼岸之人"的集團。」
……不知道。也沒興趣。」
「因為是你才會如此的吧。正由於是自己本身的事情所以才興味索然吧。」

 

「けど、わたしたちにとってはそうもいかないのよ」

「オロチの力をむざむざ横取りされちゃあ業腹だろう?」

「だからわたしたちが来たのよ」

 闇を背負って、女たちの3つの瞳が妖しく輝いている。マチュアもバイスも、庵がその手で命を絶ったはずの女だった。
 パンツのポケットに手を突っ込み、庵は唇をゆがめた。
「神楽の尻拭いとはわざわざご苦労なことだ。……だが、貴様らにいったい何ができる?」

「但是、對我們來說就不是那麼回事囉。

「大蛇之力如此輕易地被人給奪去很令人惱火的吧?」

「為此我們才現身的喔。」
身處暗處,女子們的三隻眼眸發散出妖異的光芒。不論拜斯又或瑪裘亞,都應是早已死於庵手中的女子才是。
 將雙手插入褲子的口袋中,庵的唇角扭曲了。
「要特地去幫神樂擦屁股的確是件麻煩事。……不過,你們到底又有什麼能耐?」

 

「さあてねぇ。──だけど、おたがいに何がしかの利用価値くらいはあるはずだよ。
そうだろう?」
「あなたの狙いはあのぼうや、わたしたちはあの連中……どちらも大会を勝ち抜いて
いけば、いずれ突き当たる相手よ」
……毎度のことながら、くだらん茶番だな」
「確かにね。だけど、その茶番につき合うのが、結局は一番の近道なんだよ。そし
てそのためには、形だけとはいえ、チームメイトが必要なのさ。お判りかい、八神クン?」
「ふん──

「誰知道呢。──不過,我們也還是有彼此能相互利用的價值在,是吧?」

「你的目標是那個男孩,而我們則是那個集團……不管哪個都是只要從大會中脫穎而出,就能夠遇到的對手唷。」
……每次碰面,總是盡耍些無聊的花招吶。」
「確實是這樣呢。不過,若你肯接受這花招的話,就能成為一條可以最快達成你目的捷徑喔。為此,即使不過徒具形式,隊友還是有必要的啊。了解了嗎,八神君?」
「哼──

 

 庵は興味なさげに鼻を鳴らし、歩き出した。マチュアたちのかたわらを通りすぎ、歩道橋を下っていく。
 足を止めることなく、庵は背中越しにつけ足した。
「あらかじめいっておく。もし俺の役に立たんようなら──
「貴様らに用はない、だろ? ……覚えてるよ」
 バイスの含み笑いが降ってきた。
「わたしたちも楽しみにしてるのよ。炎を失った今のあなたの強さをね。──あなたのことだから、わたしたちを失望させたりはしないでしょうけど」

八神意興闌珊地從鼻孔發出悶響,跨步向前。從瑪裘亞兩人的身旁掠過,緩步走下天橋。
 腳下不停、庵背對著說道。
「話先說在前頭。若是對我來說沒有用處的話──
「就不需要你們了,對吧? ……記住了唷。」
 拜斯抿著嘴露出笑容。
「我們也是期待著唷,如今喪失了火焰的你的實力。──若是你的話,應該是不會讓我們感到失望就是。

 

……口が達者なのは死んでも変わらんようだな」
 歩道橋を降りたところで立ち止まり、振り返る。
 庵を見下ろしているはずの女たちの姿はすでにどこにもなく、前髪越しの庵の視線の彼方には、冴えざえとした青い月が静かに輝いているだけだった。
…………
 庵はあらたにタバコを取り出し、よく使い込まれたライターで火をつけた。
 闇の中で、あの女たちの眼光を思わせる赤い光が明滅し、細い煙が満月の待つ夜空へと立ち昇っていった。

……伶牙俐齒的傢夥看來到死也不會改變吶。」

庵走下天橋後止住腳步、回過身來。應該正俯視著庵的女子們的身影已經無影無踪,透過前髮映入八神眼簾的,只獨一輪明月無聲地閃耀著光輝。
…………
 庵取出新的香菸,熟練地將打火機的火給點著了。
 在黑暗之中,就如同女子們瞳孔所閃爍著的赤色光芒般,一縷輕煙,裊裊昇向
,滿月的夜空之中。

 


─ 
END 
 

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